
2026
5.1
開館100周年にあたり、メッセージをいただきました
インタビュー:坂本美雨さん(ミュージシャン)
美術の力と未来へのまなざし
— 東京都美術館についてどんな印象をお持ちですか。
坂本美雨 入口が印象的ですね。違う世界に入っていくような感覚になる階段や、入り口手間の広場が好きです。つい先日「日曜美術館」で前川國男設計の建築を詳しく見せていただきましたが、細部まで計算されていて、内外が連動するデザインが美しいですね。改めて構造を知ると、その魅力がより深く理解できて、素敵だと思いました。
— 美術館との出会いや、記憶に残る体験についてお聞かせください。
坂本美雨 幼い頃から美術館にはよく行きました。ニューヨークで育ったので、マンハッタンの美術館に親と一緒に行ったり、学校でフィールドトリップといって遠足のように行くこともありました。高校では美術を専攻していたのですが、美術館に行く時間も単位になったので、学校にいるはずの時間に美術館に行けるのがすごく嬉しくて、入り浸っていました。ジャクソン・ポロックやマーク・ロスコ、マティスなどが好きで、その頃勉強していました。
近年は様々なメディアで美術を見る方法がありますが、実際作品を前にすると、まず、大きさが違いますよね。色や光、空気感なども、実物でしか得られない体験があります。それから、美術館に行くのは、作品を見るだけではなくて、行き帰りも旅だし、良いことがあったとか、疲れているとか、その日の自分の状態によっても作品の見え方が変わるのも大切な体験だと思います。東京都美術館は周りの公園も含めてとても気持ちがいいし、光の入り方や木々の揺れとか、そういう気持ちのいい要素がたくさんあって、好きです。
— 「日曜美術館」でのナビゲーションを通して、改めて美術の役割についてどう考えていますか。
坂本美雨 どの時代の美術にも願いや問いが込められていて、社会と切り離せないものだと感じます。戦争や抑圧の中でも、アートは抵抗や希望の表現となってきましたし、アーティストにしか言えないこともあると思います。
幅広く、いろいろと勉強させてもらうのですが、どんな時代にも願いが込められていると感じます。戦いのなかった時代は少なく、平和への願いや、戦いの時代に自分は何をすべきなのかを、アーティストはずっと自分に問いながら制作をしてきているのだと思います。
たとえば戦時中はアートが戦争のために使われることもあったり、それに抵抗する人もいれば、大義を感じて、それが自分の役割だと、訴えを描いた人もいて。常に社会で起きていることと連動しながら、アーティストは作品を作っていて、それはその時の人々の営みを反映しているものなんだと、すごく実感しています。
ミュージシャンは音楽だけやっていればいいとか、言いたいことはアートの中で言えとか、そういう声もあったりするけれども、世界で起きていることとアートは切り離せないし、発言する役割があると思います。アーティストしか言えないこともありますよね。
そうして、これまでの歴史の中でも、新しいアートが生み出されてきたり、抑圧に抵抗する力になってきたので、励まされることがたくさんあります。
— 今後の東京都美術館へメッセージをお願いします。
坂本美雨 とてもとても応援しています!今の日本では、文化が大切にされていないなと感じることが多いです。アートは短期的な利益ではなく、もっと何百年、何千年と、人間の人生を超えた時間の流れの中で価値があるもの。この時代に注目されなくても、すぐお金にならなくても、大切に保存し価値を伝えていく義務があると思う。それによって人生を救われるような人が現れるはず。一つ一つのアート、一つ一つの作品を大事に伝えていってほしいです。私たちもその価値を知って一緒に大事にする社会を、構造的なことも含めて、作っていかなきゃいけないと思います。
— 5月1日は美術館生誕でもあり、坂本さんの誕生日ですが、ご縁は感じますか。
坂本美雨 忘れないですよね。5月1日の誕生花はスズランで毎年花を買うのが楽しみなのですが、ぜひ東京都美術館にも植えてほしいです。
坂本美雨(Miu Sakamoto)
1980生まれ。東京とNY育ち。1997年「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義でデビュー、ラジオやナレーション、執筆など多方面でも活躍。2024年からNHK Eテレ『日曜美術館』の司会に就任。社会支援プロジェクトにも積極的に参加し、音楽を軸に活動の幅を広げている。