DIY(Do It Yourself/自分でやってみる)とは、目の前の問題を自分自身の工夫で解決していくアプローチのことです。日曜大工や住民主体のまちづくりなど、私たちの身近な場面で実践されています。DIYはより良く生きるための方法であると同時に、不便や困難を乗り越えるための手段でもあります。その過程では、自ら手を動かすことで得られる気づきや達成感といった「つくるよろこび」も味わえるのではないでしょうか。
本展では、DIYの手法や考え方に関心を寄せる、5組の現代作家と2組の建築家を紹介します。身の回りのものでつくる作品や、多様な人が関わる場のデザインに加え、震災や経済的な事情により何もない場所に立たされた人々の切実な営みにも焦点を当てます。本展を通じて、自分なりの方法と感覚を頼りにつくるDIYと「生きること」のつながりを考えるきっかけになれば幸いです。
出品作家(展示順):若木くるみ、瀬尾夏美、野口健吾、ダンヒル&オブライエン、久村卓、伊藤聡宏設計考作所、スタジオメガネ建築設計事務所
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DIYをテーマに「つくるよろこび」に迫る展覧会
アーティスト、建築家、路上生活者、災禍を経験した人々──それぞれのDIYの実践を通じて、誰もが持つ創造性と生きることのつながりを探ります。
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5組の現代作家と
2組の建築家による多彩な作品
DIYの手法や考え方に関心を寄せる7組の出品作家が、版画、ドローイング、言葉、写真、映像、インスタレーションなど、多様な表現で空間をつくりあげます。
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参加型作品の展示
DIYについて考え、実際に手を動かして体験できる参加型の作品も展示。見るだけでなく、つくる・話す・考えることで展覧会を楽しめます。
若木くるみ
WAKAKI Kurumi
1985年北海道生まれ。京都市立芸術大学で木版画を専攻。卒業後、版画という技法を拡張し、自らの身体を版として用いるインスタレーションやパフォーマンス作品など、多様な表現を展開する。2009年には岡本太郎現代芸術賞を史上最年少で受賞。近年は、版画ならではの「摺る」という行為に立ち返り、空き缶や歯磨き粉のチューブなど、日用品を版として再利用する作品を手がけている。本展では、主に作家自身の自宅にある物を使い、身近な素材から新しいイメージを生み出す実験的な版画作品を発表する。
略歴
2008年
京都市立芸術大学美術学部美術科版画専攻 卒業
主な個展
2012年
「車輪の下らへん」(Gallery Jin)
2014年
「若木くるみの制作道場 リターンズ」(坂本善三美術館)
2018年
「アウトでがんす」(MORITAKA art gallery)
「版ラン!」(富山県美術館TADギャラリー)
2020年
「コースロスト」(FINCH ARTS)
2022年
「波版画」(アートゾーン神楽岡)
2024年
「文化村クリエイションvol.6『修復わたくし』」(なら歴史芸術文化村)
主なグループ展
2017年
「ソーシャリーエンゲイジドアート展 社会を動かすアートの新潮流」(アーツ千代田3331)
2019年
「Go Somewhere!」(在カナダ日本国大使館)
2021年
「Kyoto Art for Tomorrow 2021−京都府新鋭選抜展−」(京都文化博物館)
2023年
「TARO賞の作家III 境界を越えて」(川崎市岡本太郎美術館)
受賞
2009年
「第12回岡本太郎現代芸術賞展」岡本太郎賞
2013年
「六甲ミーツ・アート大賞」グランプリ
2021年
「京都市芸術新人賞」
若木くるみ 《キャンベルスープ》
2024年 空き缶を用いた版画 作家蔵
若木くるみ 《チューブの開き 水蟹2》(版と制作風景)
2024年 チューブを用いた版画 作家蔵
写真:Hiroshi Ikeda
瀬尾夏美
SEO Natsumi
写真:Hiroshi Ikeda
1988年東京都生まれ。土地の人びとの言葉と風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。2011年、東日本大震災のボランティアを契機に、映像作家の小森はるかとのユニットで制作を開始。2012年から3年間、岩手県陸前高田市で暮らしながら、対話の場づくりや作品制作を行なう。2015年、宮城県仙台市で土地との協働を通した記録活動をするコレクティブ「NOOK(のおく)」を立ちあげる。現在は江東区で「studio04」を運営しながら、 過去の災禍の記録のリサーチし、それらを活用した表現を模索する協働プロジェクト「カロクリサイクル」も手がける。本展では、災禍の記憶を胸に生きる人々の営みを捉えたドローイング、絵画、文章などを展示する。
略歴
2011年
東京藝術大学美術学部先端芸術表現科 卒業
2014年
東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画領域 修了
主な個展
2015年
「クリテリオム91」(水戸芸術館)
2019年
「風景から歌」(Gallery TURNAROUND)
「あわいゆくころ」(東北リサーチとアートセンター)
主なグループ展
2012年
「3.11とアーティスト|進行形の記録」(水戸芸術館)*
2015年
「VOCA展2015」(上野の森美術館)
2016年
「大地に立って/空を見上げて-風景のなかの現代作家」(群馬県立館林美術館)
2017年
「ヨコハマトリエンナーレ2017『島と星座とガラパゴス』」(横浜美術館)
2019年
「都美セレクショングループ展 2019『星座を想像するようにー過去、現在、未来』」(東京都美術館)
2021年
「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」(東京都写真美術館)*
2023年
「コレクション・ハイライト+ コレクション・リレーションズ[ゲストアーティスト:小森はるか+瀬尾夏美]」(広島市現代美術館)*
*小森はるか+瀬尾夏美として参加
主な著書
2019年
単著『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』(晶文社)発売
2021年
単著『二重のまち/交代地のうた』(書肆侃侃房)発売
2022年
共著『10年目の手記』(生きのびるブックス)発売
2023年
共著『New Habitations』(yyy press)発売
単著『声の地層 災禍と痛みを語ること』(生きのびるブックス)発売
瀬尾夏美 《地底に咲く》
2015年 ドローイング 作家蔵
瀬尾夏美 《二重のまち》
2015年 ドローイング 作家蔵
野口健吾
NOGUCHI Kengo
1984年神奈川県生まれ。写真家。東京藝術大学大学院美術研究科を修了後、路上生活者、バックパッカー、巡礼者、インドのチベット難民、ネパール地震に直面した辺境の村家族など、多様な人々を撮影しながら、写真・映像作品を制作している。本展では、日本の都市の片隅で生きる人々の姿を捉えた「庵の人々」シリーズを展示する。創意工夫により生活を築く庵主たちの人間模様とともに、ブルーシートや廃材など身近な素材を組み合わせてDIY的につくられた庵の様相に焦点を当てる。
略歴
2007年
立教大学社会学部現代文化学科 卒業
2013年
東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻 修了
主な個展
2015年
「Live Your Own Life」(Bright Photo Salon)
2016年
「Family Affair」(新宿ニコンサロン・大阪ニコンサロン)
「Your Life Is Not Your Own」(黄金町エリアマネジメントセンター)
2019年
「庵の人々 The Ten Foot Square Hut 2010-2019」(銀座ニコンサロン・大阪ニコンサロン)
2020年
「Along The Way」(エプサイトギャラリー)
主なグループ展
2012年
「MEC Award 2012 入選作品展」(SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ映像ミュージアム)
「第7回写真『1_WALL』展」(ガーディアン・ガーデン)
「ギマランエス nocnoc 2012」(plataforma das artes guimarães / ポルトガル)
2013年
「HUMONIUM vo.2」(オーディトリウム渋谷)
2015年
「フォトふれ NEXT PROJECT 2015 スライドショー」(東川国際写真フェスティバル)
2021年
「all in good time」(DIGINNER GALLERY)
2022年
「YOSHINO ART CONNECT」(スパイラル)
受賞・助成
2015年
「BRIGHT PHOTO AWARDS 2015」グランプリ
2016年
ポーラ美術振興財団在外研修助成(インド)
2017年
吉野石膏美術振興財団在外研修助成(アメリカ)
野口健吾 《庵の人々 神奈川県横浜市港北区》
2012年 写真 作家蔵
野口健吾 《庵の人々 東京都渋谷区》
2011年 写真 作家蔵
写真:Andrew Watson
ダンヒル&
オブライエン
Dunhill and O’Brien
写真:Andrew Watson
ロンドンを拠点とするマーク・ダンヒルとタミコ・オブライエンは、1998年からアーティスト・デュオとして共同制作を行う。二人は、個々の好みや従来の彫刻制作に伴う複雑な工程にとらわれることなく、協働の難しさと可能性を創造の糧とし、思いがけない発見をもたらしながら表現活動を展開する。独自の装置を作ったり、パフォーマンスや他者との共同作業を取り入れたりしながら作品を生み出している。本展では、彫刻とDIYの垣根を超え、複数のセクションで構成されるインスタレーションを制作する。
略歴
1977年
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程彫刻学科(マーク・ダンヒル)
1988年
チェルシー・カレッジ・オブ・アート修士課程彫刻学科(タミコ・オブライエン)
主な個展
2005年
「Sculptomatic 2」(Kunstvereniging Diepenheim、オランダ)
2014年
「ごめん!どうしてもだめなの・・・いいね!もっといこう・・・」(遊工房アートスペース)
2016年
「Rockery」 (White Conduit Projects、ロンドン)
2019年
「Terms & Conditions」 (Airspace Gallery, for the British Ceramics Biennial、ストーク・オン・トレント)
2022年
「Modern Object」 (Postroom Gallery、ロンドン)
2023年
「Reverse Homesickness」 (Das Weisse Haus (with Kristaps Ancans)、ウィーン)
主なグループ展
2016年
「複雑なトポグラフィ──動態と変化」(栗林公園)
2017年
「Concrete + Clay」 (Room Art Space、ロンドン)
2017年
「A Bird in the Head」 (Danielle Arnaud Gallery、ロンドン)
2018年
「A Concentration of Power」 (Joost van den Bergh Gallery、ロンドン)
2019年
「Carl Plackman and His Circle」 (Pangolin、ロンドン)
2023年
「Bad Ideas」(Talinn Art Hall、エストニア)
受賞・助成
2002年
ブリティッシュカウンシル助成(European Ceramic Work Centre (EKWC)レジデンス)
2003年
Rome Scholarship Award(British School at Romeレジデンス)
2007年
アーツカウンシル・イングランド、大和日英基金、グレイトブリテン・ササカワ財団助成(遊工房アートスペースレジデンス)
2019年
アーツカウンシル・イングランド助成(Airspace Gallery、ストーク・オン・トレント)
ダンヒル&オブライエン 《Apparatus: Moore’s Mallet V1》 2024年 作家蔵
ダンヒル&オブライエン 《STONE APPRECIATION》(部分) 2018年 作家蔵
久村卓
HISAMURA Taku
1977年東京都生まれ。多摩美術大学彫刻学科卒業。ヘルニア発症がきっかけとなり、心身ともに軽さを重視した制作を模索する中で、ハンドメイドからDIYクラフトまで、美術の周縁に位置する技法や素材を積極的に採用するようになる。控え目な手つきで変化を生み出しながら、従来の美術制度の枠組みを問いかけるような作品を制作している。本展では、手芸による「着られる彫刻」や、既製品を装飾として取り込んだレディメイドの手法で制作されたベンチなどを展示する。
略歴
2001年
多摩美術大学美術学部彫刻学科 卒業
主な個展
2012年
「あってないようなもの」(3331GALLERY)
2016年
「家内制スカルプチャー」(AI KOWADA GALLERY)
2020年
「リピート再生」(NADiff a/p/a/r/t Window Gallery)
2021年
「ワンポイント・スカルプチャーズ」(GALLERY ROOM・A)
2022年
「一点彫刻」(SOMSOC Gallery)
2024年
「手工芸アートセンター」(ギャラリーかわまつ)
主なグループ展
2015年
「第26回 UBEビエンナーレ」(ときわミュージアム)
2018年
「道後オンセナート2018」(道後温泉及びその他周辺エリア)
2019年
「虚構のはずれ/On the Verge of Fiction」(關渡美術館)
2021年
「これから始まるリニューラボ」(アートラボはしもと)
2022年
「日常をととのえる」(はじまりの美術館)
2024年
「Transcendence」(Sansiao Gallery HK)
受賞
2011年
「Hierher Dorthin」最優秀賞
2015年
「3331 Art Fair 2015」美術手帖賞
2022年
「WATOWA ART AWARD 2022」椿昇賞
2024年
「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2024 マイナビ ART AWARD」優秀賞
久村卓 《刺繍BAR / 織物BAR at 藝大部屋》
2024年 インスタレーション 作家蔵
久村卓 《PLUS_captain’s dark blue work pants》
作業着にパッチワーク 2024年 作家蔵
イラスト:Yuko Ohara
伊藤聡宏設計考作所
Akihiro Ito Architects
イラスト:Yuko Ohara
一級建築設計事務所。長野県を拠点とし、空き家の調査・利活用、地場の職人技術(漆芸・木工など)の紹介、手工芸品の製作、農作物や消費材の自給生産など、建築を軸に地域の環境風土や暮らしに新たな関係性をつくる幅広い活動を行っている。主な活動に「誰でもできる建築教室」、「麻太の家」、「奈良井とおいち」などが挙げられる。本展では、多摩市を拠点に活動するスタジオメガネ建築設計事務所と協働し、来場者がそれぞれに本展のテーマについて考えるためのプラットフォームを構想する。
略歴(伊藤聡宏)
2000年
文化服装学院卒業
2007年
東京造形大学サステナブルプロジェクト専攻領域 卒業
2007年 - 2010年
建築設計事務所 A-ASTERISK(上海)
活動歴・実績
2013年
「大阪市木津川遊歩空間デザインコンペ」ファイナリスト選出
2014年
「JIA神奈川 建築WEEK 横濱建築祭 2014 茶室デザインコンペティション」優秀賞
2017年
「Architects of the Year 2017『越境プロジェクト』」(日本橋の家)
2018年
「別冊KURA 塩尻特集」掲載
2018年
「建築設計06 『越境プロジェクトを求めて』」掲載
2022年
「奈良井 土-とおいち-」開店
2023年
「女川町海岸広場プライベートキャビンデザインコンペ」一次通過
誰でもできる建築教室の様子
とおいちギャラリー(奈良井宿)
スタジオメガネ
建築設計事務所
studiomegane architects
一級建築設計事務所。多摩ニュータウンの商店街に事務所を構える。設計事務所を地域に開き、アートやデザインに従事する人々並びに地域住民と共に、多様な人が関われるオルタナティブ空間「STOA」を自主運営している。地域に開かれた文化の発信拠点を目指すSTOAは、未完成のままに地域と反応しながら変化することを大切にしている。また、消費を⽬的とせず、訪れる⼈が思想に耽ることができる場を⽬指している。本展では、長野県を拠点に活動する伊藤聡宏設計考作所と協働し、来場者がそれぞれに本展のテーマについて考えるためのプラットフォームを構想する。
活動歴・実績
2018-2020年
三浦展(社会学者)と「建築スナック」を開催
2017年
「住宅特集 2017年12月号」掲載
2018年
「LIFULL HOME'S PRESS」掲載
「新建築 2024年9月号」掲載
三浦展『100万円で家を買い、週3日働く』 (光文社新書) 掲載
2020年
「第一生命財団 第31回『緑の環境プラン大賞』」コミュニティ大賞 (恵泉女学園との共同)
2023年
「第9回 これからの建築士賞」
2024年
「新建築住宅設計競技」最優秀賞
STOAの活動風景(多摩市)
小豆島に展開するSTOAの改修風景