北欧の国デンマークは、デザイン大国として知られます。
とりわけ1940年代から 60年代にかけて、デンマークでは歴史に残る優れた家具が生み出されました。
デンマークのデザイナーのなかでも、フィン・ユール(1912-1989)は、ひときわ美しい家具をデザインしたことで知られます。優雅な曲線を特徴とするその椅子は、「彫刻のような椅子」とも評されます。当時の家具デザイナーたちの多くが家具の専門学科や家具工房の出身であるのに対し、フィン・ユールは美術史家になることを夢見ながらもアカデミーで建築を学び、建物の設計やインテリアデザインにたずさわるなかで家具デザインを手がけました。身体を抽象化したようなやわらかなフォルムは座って心地よいばかりで なく、彫刻作品にも似た静謐な存在感を放ち、建築や美術、あるいは日用品と濃密に響き合いながら、空間の調和を生み出す役割をも果たしているようです。
フィン・ユール《イージーチェア No.45》1945年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
フィン・ユール《チーフテンチェア》1949年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
本展は、デンマークの家具デザインの歴史と変遷をたどり、その豊かな作例が誕生した背景を探るとともに、モダンでありながら身体に心地よくなじむフィン・ユールのデザインの魅力に迫る試みです。椅子のデザインにはじまり、理想の空間を具現した自邸の設計や、住居や店舗、オフィスのインテリアデザインまで、フィン・ユールの幅広い仕事を紹介します。椅子という、あらゆる日常を支える身近な家具にあらためて光を当てる本展が、新しい生活を模索する私たちが快適に生きるためのヒントを見つける機会となれば幸いです。
フィン・ユール《ウィングバックソファ》1951年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
フィン・ユール《ウィングバックソファのドローイング》水彩、紙 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
フィン・ユールは、デンマークの家具デザイナーのなかでも、ひときわ美しい椅子をデザインしたことで知られます。ソファのやわらかい丸み、肘に沿う滑らかなアーム、ほっそりとシャープな脚部…その椅子には、建築を学び、美術を愛したフィン・ユールならではのこだわりが随所にあらわれています。フィン・ユールとデンマークの椅子を通して、北欧デザインの新たな魅力を発見してください。
フィン・ユール《ペリカンチェア》1940年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
フィン・ユール《イージーチェア》1955年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
ハンス J. ウェグナー《ザ・チェア(プロトタイプ)》1949年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
北海道東川町が所蔵する織田コレクション。椅子研究者の織田憲嗣氏が研究資料として長年にわたり収集してきた20世紀の家具、日用品のコレクションです。本展は、世界的にも名高い織田コレクションを東京でまとめてご紹介する初めての機会となります。試作として作られた貴重な一脚から名作と言われる椅子まで、バラエティに富む数々の椅子をお楽しみください。
椅子とは本来は座るもの。本展では、デンマークのさまざまな椅子に実際に座り、そのデザインを体験していただく空間をつくります。フィン・ユールをはじめ、デンマークの優れたデザイナーたちの豊かな発想から生まれた椅子に座り、それぞれのスピリットを体感してみてください。