壁は橋になる
Walls & Bridges
2021.7.22~10.9 東京都美術館ギャラリーA・B・C 2021.7.22~10.9 東京都美術館ギャラリーA・B・C

世界にふれる、世界を生きる

本展でご紹介するのは、表現への飽くなき情熱によって、自らを取巻く障壁を、
展望を可能にする橋へと変え得た5人のつくり手たちです。

彼らにとって制作とは、生きるために必要な行為であり、文字通り精神的な糧というべきものでした。
詩人の吉田一穂(よしだ・いっすい)は「熱情とは砂すら燃やすものだ」と詠いましたが、
彼らのひたむきな情熱も驚くべき強さを秘めていたのです。

東勝吉顔写真

東 勝吉Katsukichi Higashi

(1908-2007)

木こりを引退した後、老人ホームで暮らしていた東は、
83歳のときから本格的に絵筆を握り、大分県由布院の
風景画の制作に没頭。99歳で亡くなるまでの16年間で、
珠玉の水彩画100余点を描いた。

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《川西から見た由布山》

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増山たづ子顔写真

増山 たづ子Tazuko Masuyama

(1917-2006)

生前「カメラばあちゃん」の愛称で親しまれた増山たづ子。故郷の岐阜県旧徳山村と村民を記録するため、還暦を過ぎてから写真の撮影に挑戦、10万カットにも上る撮影を行った。村は彼女の没後、ダム建設によって消滅した。

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《川西から見た由布山》

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シルヴィア・保田顔写真

シルヴィア・ミニオ=
パルウエルロ・保田Silvia Minio-Paluello Yasuda

(1934-2000)

イタリアのサレルノに生まれた。彫刻家であった夫を
支え、家事と育児に専念しつつ、寸暇を惜しみ、彫刻と
絵画の制作にいそしんだ。敬虔なクリスチャンであった
彼女の真摯な制作は、切実な祈りそのものだった。

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《シエナの聖カタリナ像とその生涯の浮彫り》(部分)

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ズビネェク・セカル顔写真

ズビニェク・セカルZbyněk Sekal

(1923-1998)

チェコのプラハに生まれ、反ナチス運動に関わった結果、
投獄の憂き目にあい、強制収容所での日々を経て、後年
アーティストとなったセカル。40歳を過ぎて取り組んだ
彫刻作品は、名状しがたい存在への問いを湛えている。

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《仮面をつけた仮面》

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ジョナス・メカス顔写真

ジョナス・メカスJonas Mekas

(1922-2019)

リトアニアの農家に生まれ、難民キャンプを転々とした後、ニューヨークに亡命。貧困と孤独のなか、中古の16ミリカメラにより身の回りの撮影を始め、類例のない数々の「日記映画」を残すことになった。

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《アンソニー、ジョン、リーはホームムービーの申し分のない生徒で、私は教授のようにふるまった。モントーク、1972年》

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5人の生涯に共通するところはほとんどありません。
しかし、その異なる生き様から生まれた作品のアンサンブル──絵画、彫刻、写真、映像──には、
記憶という言葉から導かれる不思議な親和性があるように思われます。

何ら交わることのなかった個の軌跡が、
ともにある世界へと見るものを誘う想像/創造の連鎖。
本展が生きるよすがとしてのアートの深みにふれていただける機会となることを
願っています。